死産した双子の遺体を放置したとして、死体遺棄罪に問われたベトナム国籍の女性技能実習生の控訴審判決が19日、福岡高裁(辻川靖夫裁判長)で言い渡される。被告は誰にも相談せずに孤立出産した。無罪を主張する弁護側は、妊娠・出産した実習生が帰国を余儀なくされているとして、支援態勢の不備も訴えている。
一審の熊本地裁判決によると、レー・ティ・トゥイ・リン被告(22)は2020年11月15日ごろ、熊本県芦北町の自宅で死産した双子の男児の遺体を自室に置き、遺棄したとされる。遺体をタオルで包んで段ボール箱に入れ、1日以上置き続けており、「死産を周りに隠したまま私的に埋葬するための準備であり、正常な埋葬準備ではないから、国民の一般的な宗教的感情を害する」として、執行猶予付きの有罪判決を言い渡された。
リン被告は不服として控訴。弁護側は、双子に名前をつけ、弔いの言葉を書いた手紙を添えて自室で一晩を過ごしている被告の行動は「遺体の入棺と安置」であり死体遺棄罪は成立しないと反論し、「孤立出産も死産も犯罪ではない」と訴えている。
公判でリン被告は「実習生が妊娠すると帰国させられると思った」と主張。弁護側は、妊娠した実習生は仕事ができずに収入がなくなり、十分にサポートする制度もなく帰国に追い込まれてしまう現状があると訴えてきた。
出入国在留管理庁によると、技能実習生は20年12月末現在で約37万8千人おり、在日外国人の13・1%を占める。実習生には労働基準法などが適用され、妊娠・出産しても在留資格は失わず、不利益な扱いは違法となる。入国管理局(当時)などは19年3月、実習生の受け入れ窓口となる協同組合などの監理団体に対し、妊娠などを理由にした不利益な扱いを禁止する通知も出している。
しかし、厚生労働省によると、17年11月~20年12月に妊娠・出産を理由に計637人の男女が実習を中断。このうち実習の再開が確認できたのは21年8月現在で11人(1・73%)にとどまる。技能実習業務指導室の担当者は「多くの場合は母国で子育てしていると想定される」と話す。
リン被告は控訴審前の記者会見で、「監理団体から18年版の技能実習生パンフレットをもらったが、妊娠出産については何も説明がなかった」と話す。リン被告の監理団体は朝日新聞の取材に「実習生の妊娠は想定していなかったが、リンさんの体の異変を感じてから、実習先の社長と何度も様子を見に行った。リンさんが妊娠を認めていれば、労基法に準じて産休や育休をとらせるつもりだった」と話した。
外国人の労働問題に詳しい神戸大学大学院の斉藤善久准教授は「外国人技能実習生の多くは来日にあたり語学の試験がなく、一人では日本で十分に社会生活を送れない労働者であることから、監理団体などが生活面や就労面のサポートをすることになっている。被告人にすべての責任を負わせることは適当でない。事案の背景には、外国人技能実習制度における妊娠した実習生へのサポートの不備がある」と指摘している。(屋代良樹)
周囲に明かせなかった妊娠、恐れた帰国
リン被告は18年8月、農業の技能実習生として来日した。日本での実習を決めたのは「家族のために稼ぐ」ためだった。来日費用として家族は年収の5倍の借金をし、リン被告を送り出したという。
一審での証言によると、リン…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル